2024年05月08日
近づけば近づくほどこの世界は、ふんわりときれいだった
青山 美智子著 「リカバリー・カバヒコ」から
網戸の向こうのベランダにバケツがあるとするじゃないですか。
バケツを見ようとすると、そっちにビントが合って、目の前の網戸が消えるんですよね。
で、網戸を見ようとすれば細かい格子が現れる。
そうするとバケツは、視界というか、極端な話、頭からいなくなる。
人間って結局、見たいものだけ見たいように見てるんですよ」
「ほんとに、勝手だよなあ」
我が身を振り返りながら俺が笑うと、高岡は言った。
「それでいいんじゃないですか。何が大事で必要か、そのつど選択しながら生きているってことでしょ。なにもかも全部はっきり見てやろうなんて、そのほうが傲慢ですよ」
公園を出ようと歩き出したとき、美弥子が自分の三つ編みをつまみ、毛の先を鼻に持っていった。
「あ―、髪の毛にお好み焼きの匂いついちゃってる。お母さんにいやがられるかも」
「そうか?」
俺は匂いを嗅いで確認しようと、美弥子に顔を寄せた。
その瞬間、美弥子はぱっと後ずさる。
「こんな明るい太陽の下で、あんまり近くで見ないで。最近、シミとか皺とか、いっぱい出てきちゃってるから」
美弥子は片手を上げ、顔を隠すようにして覆った。
俺はその手を、思わず握る。美弥子が「えっ」と目を見開いた。
俺が美弥子に、美弥子が俺に、触っている。
一緒に年を重ねてきた心強い相棒。これからも、きっとずっとだ。
「そんなもん、俺には見えないよ」
本当だよ。
俺のピントは、そんなところに合わせられてなんかいない。
そして今の俺には、近づけば近づくほどこの世界は、ふんわりときれいだった。
カメラでも近くに焦点を合わせると、遠くの背景がぼやけて見えます
人の良い部分に焦点を合わせると、欠点は見えなくはなりませんが、あまり目がいかなくなることに・・
逆もありますね
どの部分に目を向けるか
同じものを見ていても、見える景色はそれぞれに違ったものにもなりますね
GW 富山 立山連峰
Posted by 尾上 正 at 05:57│Comments(0)